「あんたらはいいね。いつでも来られるじゃないか。」
そういわれたのは、彼女が最期に訪れた有名な観光地だった。
足の悪かった私は、一人ではその坂を上ることができなかった。
だからずっとあきらめていた。
ある日、孫が来て、京都に行こうと言い出した。
最初は迷惑をかけるんじゃないかと思い拒んでいたが、説得されるうちに、「孫とどこかへ行けるのも最後かもしれない。」
そう思って、頑張ってみることにした。
どこに行っても観光地であるこの町は、平地だろうが坂道だろうが人でいっぱいだった。
流れに翻弄されながらも、家族での旅行は楽しかった。
もう、ここへ来られるのも最後かもしれない。そう思って、坂の上まで行きたい。と話した。
それからずっと、嫌な顔一つせずに、背中を押してくれる。
一番若いのが、「背負ってやる」なんてことまで言っていた。
坂道は、健常者でも息が荒れる程度には急であったが、一歩ずつ、ゆっくりと上った。
途中、何度も休憩をしながら登り切った先のお寺でゆっくり休憩ができると思ったが、そこも人でいっぱいになっていた。
観光地だから仕方ない。
だが、よく見てみると、荷物を広げて座っている人たちが結構な数いることに気づいた。
正直、そういう人たちに関わってもいいことはないのだが、彼女が心配だった孫は、彼らに席を空けてもらえるように頼みに行った。
しかし、孫が戻ってきたときの顔は、とても暗かった。
気にしなくていいと言ったのだが、表情の変わらない孫に、もう少し先まで行ってみようと言い、移動することにした。その時、孫と話した彼らの前を通り過ぎるときに聞こえてきた言葉は、あまりにも酷いものだった。
「私があの場所へ来たいと言ったばかりに、孫に可哀そうなことをした。」
そう書かれた日記を見つけたのは、祖母が昨日まで暮らした病室だった。
あれから、彼女は自力で歩くことができなくなってしまった。
ずっと、無理をさせてしまったのかと思っていたが、私が余計なことをしたからだったのかもしれない。